2020/10/12
研究活動 プレスリリース

【プレスリリース】東京医科?学医学総合研究所の落?孝広教授が参画する研究チームが、リキッドバイオプシーを用いたCOVID-19における重症化予測因子の同定 -予測のみならず新規治療法や病態解明への期待-

 

 このたび、本学医学総合研究所の落谷孝広教授と東京慈恵会医科大学エクソソーム創薬研究講座の藤田雄講師、同内科学講座呼吸器内科の桑野和善教授、同感染症科の保科斉夫講師、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校の松崎潤太郎博士研究員(188bet体育_188bet亚洲体育-在线*投注医学総合研究所客員研究員)、および国際スペースメディカル株式会社(代表:宮戸みつる)らの共同研究チームは、がん診断などに用いられるリキッドバイオプシーの手法である血液中のエクソソームや核酸を解析することにより、COVID-19における新しい重症化予測因子を同定致しました。
 同定されたエクソソームや血液中核酸は、予測バイオマーカーとしての役割だけでなく、これらを応用した新規治療法開発や病態解明が期待されます。

【研究の背景】
 リキッドバイオプシーとは、血液中に流れるデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)、エクソソームなどを解析することにより、低侵襲にがんの超早期診断や抗がん剤の選択に役立つとされています。血液中のこれらの情報は、がん患者だけでなく、感染症に罹患された方においても、早い段階から健常者との違いを示すことが報告されており、我々はこの血液中エクソソームや核酸の違いを解析することでCOVID-19の重症化の予測ができないかと考えました。一般に血液中の核酸は、細胞が分泌する安定的なカプセルであるエクソソームの中に一部が内包されていることが分かっています。エクソソームは、さまざまな種類の細胞が分泌する100nm程の脂質二重膜で囲まれた小胞で、細胞間相互作用に重要な役割を担っていることが知られています。特に細菌やウイルスに感染した細胞は、エクソソームを介して周辺の細胞に影響を与えており、例えばウイルスをエクソソームに内包させ細胞外に排出することで、ウイルスの拡散に寄与することが多数報告されています。それらは病態を重症化させる要因となったり、一方で体がウイルスから打ち勝つ正常反応を反映する可能性が考えられています。つまり新型コロナウイルスに感染した患者さんのエクソソームや核酸を解析することは、重症化する際に関与する人体の応答をすばやく見つけ出すことができる可能性があります。
 本研究では、新型コロナウイルスに感染した患者さんの入院時の血液を解析することにより、リキッドバイオプシーを用いた新たなCOVID-19における重症化予測因子を同定することを目指しました。

【本研究で得られた結果?知見】
 今回、同研究チームは、2020年3月から5月に東京慈恵会医科大学附属病院に新型コロナウイルスPCR検査にて陽性となり入院した42名のCOVID-19の患者さんを対象としました。そのうち、入院時にWHO重症度分類にて既に重症であった11名を除外し、残りの入院時に軽症であった31名を解析対象とし、コントロールサンプルとして10名の健常者血清(大宮シティクリニック、代表:中川良)を用いて合計41サンプルを解析しました。31名のCOVID-19の患者さんのうち、入院後の経過にて9名が集中治療で人工呼吸器の治療が必要となる重症化イベントを認め、残りの22名が軽症のままで退院されました。この31名(軽症22+重症化9名)のCOVID-19患者さんの入院時の血液サンプルと健常者10名の血清を用いて、特に血液中RNAおよびエクソソームタンパク質に着目し、それぞれ次世代シーケンサー※1)および質量分析(LC-MS) ※2)により網羅的解析を行いました。これらの解析結果から、COVID-19患者の重症度の早期予測バイオマーカーとして3つの異なるグループ、
 (1)抗ウイルス応答関連エクソソームタンパク質???エクソソームCOPB2、PRKCBなど
 (2)凝固関連エクソソームタンパク質およびRNA???エクソソームMFAP4、ECM1、CAPN、FGG、CD147など
                      ???RNAとしてCDKN2B.AS1 (long-non coding RNA※3))など
 (3)肝障害関連RNA???microRNA-122-5p(microRNA※4))、SNORD33 (small nucleolar RNA※5))など
を見出しました。これらのマーカーの中で、抗ウイルス応答関連エクソソームタンパク質であるCOPB2(golgi-ER traffickingに重要なCOPI vesicleの構成要素)は、本研究コホートにおいてCOVID-19患者の重度化に対する最も優れた予測能を有していました (AUC=1.0, 感度?特異度共に100%)。つまり入院時(コロナ陽性判定時)において、エクソソームCOPB2の血液中のレベルが高いCOVID-19患者は、重篤なイベントを経験することなく病気を克服できる可能性があります(図1)。
図1.JPG

 一方で、(2)凝固関連マーカーや(3)肝障害関連RNAに関して、これまでの研究においても凝固能や肝障害の程度が、すでにCOVID-19の重症化予測因子として多数報告されています。つまり今回の解析結果は、これまでのCOVID-19患者の臨床背景を反映していることがわかりました。さらに、臨床現場で測定される凝固機能を反映するD-ダイマーや肝逸脱酵素ALTと比較しても、凝固関連エクソソームタンパク質およびRNAや肝障害関連RNAは、それぞれ優れた予測能を有していました。

 このようにリキッドバイオプシーによるCOVID-19患者の早期重症化予測研究から、エクソソームCOPB2などの(1)抗ウイルス応答関連エクソソームタンパク質、が高い患者さんは重症化せず、一方で(2)凝固関連エクソソームタンパク質およびRNAや(3)肝障害関連RNA、が高い患者さんは重症化する可能性が示唆されました(図2)。これらは機能的なエクソソーム成分が、COVID-19の重症化病因の潜在的な原因および緩和剤にもなり得ることを示唆しています。

図2.jpg 

【今後の研究展開および波及効果】
 本研究結果をもとに現在、異なる患者集団を用いた検証解析を行っています。リキッドバイオプシーを用いたCOVID-19患者の重症化予測は、従来の血液マーカー、サイトカイン、またケモカインによる液性因子とは全く異なる展開が期待されます。重要な点は、エクソソームが血液中を循環し、受けて細胞に取り込まれ遺伝子制御を行っている点です。実際上記の分子のいくつかはすでに、SARS-CoV-2の治療標的分子であったりその病態との関連が報告されています。つまり今回発見された因子は、単なる血液バイオマーカーとしてだけでなく、COVID-19が重症化する重要なメカニズムに関与している可能性が示唆され、このエクソソームやRNAを補充したり、除去することが新しいCOVID-19の治療法の開発につながることが期待されます。現在、エクソソームCOPB2に着目した診断キットの開発を進めています。

【用語説明】
※1)次世代シーケンサー:数千から数百万もの遺伝子の配列を同時に配列決定可能な高精度な解析法。
   以下に記す様々なRNAの発現解析が可能となった。
※2)質量分析:試料中のタンパク質を網羅的に解析する方法。
※3)long-non coding RNA:タンパク質に翻訳されないnon-coding RNAの中で200塩基長以上のRNA。
※4)microRNA:タンパク質に翻訳されないnon-coding RNAの中で20-25塩基長の微小なRNAとなる機能性核酸。
※5)small nucleolar RNA: 核小体低分子RNAと呼ばれるnon-coding RNAの1つである。


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